第0話:どうかしてるよ

「『よど号』グループを理解するためには、『平気で嘘をつく』ということをキーワードとして付け加えておかなければならないだろう。ただ、このことは少しばかり注釈が必要だ。これは決して誹謗中傷の類ではない。カルト集団の言葉の使い方や発想の仕方は、その集団に寄り添ってみるのでなければなかなか理解が難しいことを言ってくる。カルト集団の発想には、その集団独自の仕方や言葉の使い方がある。これらの《言葉》や《発想》が理解できなければ、相手の意図がまったく分からないという事態が出現する。」

高沢皓司(ジャーナリスト)


見附というのは見張り所を意味し、お堀の城門ごとにあることからそれぞれの地名がつけられている。1639年に築造された四谷見附は、JR四ツ谷駅の麹町口を出たところ、タクシープールの前の交差点にあった。
都営バスが発着する一方通行の道の部分が、本来の四谷見附橋である。甲州街道からズレたところに橋を架けたのは、敵が江戸城に直進して攻め入ることを避ける防衛上の理由からである。
明治に入り城門は撤去されたが、甲州街道を直進出来ないのは不便であるため、1913年になって外堀をまたぐ長さ37m、幅22mのアーチ橋が竣工した。当時の赤坂離宮、旧迎賓館のデザインに併せたフランス風の装飾がなされ、戦災を免れたアーチは70年以上現役を続けた後、甲州街道の拡幅工事に伴い1987年に架け替えられた。

新装成ったアーチ橋のすぐそばに、僕の母校はある。1995年に入学して2000年に卒業するまで、そしてそれ以降も関わり合いを持ってきたこの大学の、今年度の入学案内にはあるプロジェクトが紹介されている。それこそが、僕が卒業後も母校と係わり合いを持つ理由となったCALLシステムと呼ばれる教材開発プロジェクトである。

大学を志望する人が一度は目を通すものであろうこの冊子に「教員と学生のコラボレーションによるオリジナル語学学習教材の開発」なる項目があり、2ページにわたって教員と学生の対談が掲載されている。この対談では、CALLシステムの最大の特色は教員と学生のコラボレーションであり、学生グループには各分野の専門家が集まっており、教材開発は社会経験の場ともなっている、と各人が得意気に語っている。

しかしながら、ここに書かれていることの殆どは、現実を裏切っていた。一般論として、宣伝や広告の類いにおいては表現の誇張や程度の水増しといったものはどうしてもついて回るものだろう。それを差し引いて考えても、現実との乖離は度を越え過ぎていた。学生と教員のコラボレーションが長続きしたためしはなく、各分野の専門家を気取る若者は所詮知ったかぶりの域を出るものではなく、教材開発そっちのけでお遊びに費消される時間と予算から社会経験を学ぶことは覚束なかった - 僕の記憶が確かである限り。

一体いつ何処で誰がこんな虚像をつくりあげてしまったというのか。
大学に隣接するコーヒーショップで、僕は読んでいた入学案内を静かに閉じた。
目を瞑り、5年前のある日のことを思い返していた。