第2話:さよならポニーテール

「あとから何故あんなことに夢中になったんだろうと思うのが人間である。」
丸山眞男(政治学者)


かなり昔の話になるが、初恋について語ろうと思う。

僕の初恋は幼稚園の頃だった。いまだにその子の名前をフルネームで覚えているくらいだから、相当インパクトがあったのだと思う。ここでは、その子の名前をT子ちゃんとでもしておこう。T子ちゃんは、髪の毛をいつもポニーテールにしていて、美人と言うよりもむしろ、かわいい女の子だった。快活で、明るい性格だったのを覚えている。

なんでこの子を好きになったんだろう。振り返ってみると、ひとつの出来事に行き着く。

いつだったか、僕の「お誕生会」があった。恐らくはどこの家でも同じように、誕生日に友達を呼んで開くパーティーのことだが、その席で、やはりお約束のように僕は皆からプレゼントをもらうのだった。
その時、積み木やらハンカチやら、いろいろなものをもらった覚えがあるが、T子ちゃんから手渡されたのは、ミニカーだった。僕がクルマに興味があると知って、わざわざ選んでくれたのだった。女の子のこういう何気ない気遣いというか思いやりというか、ささやかな気持ちに僕はマイってしまうのである。これは今でも変わっていない。

しかし問題は、僕は気づくのに時間がかかりすぎるということだ。T子ちゃんのことが好きになってしまった、と自覚したときにはもう、卒園間近だったように思う。無論、自分の気持ちを打ち明けることなど出来なかった。

あれから15年後に、僕はまた自分の鈍感さに気づいてみたりもするのだが、それについてはまた話す機会もあるだろう。ともあれ、いまT子ちゃんがどこで何をしてるかは知る由もない。ただ、学校や街中で、ポニーテールを見かけるたび、あの子とミニカーのことを思い出して、ひとり苦笑してみたりするのである。