第4話:思い出はダンボールにつめて

「最大の落胆として心に残りはするでしょうが、最大の失敗として残るとは思っておりません。」
ロン・デニス(スコットランド人)


こちらに来てから、映画館に足を運ぶことが多くなった。街に娯楽施設があまりないことと、定期的に試写会をやっていて、封切り前の作品を格安で観ることが出来るからである。
映画館に足を踏み入れるたび、思い出すことがある。

これまで僕は、映画館で映画を観ることがほとんどなかった。レンタルビデオがあるし、わざわざ劇場に足を運ぶまでもないと思っていたからだ。だから、観たいなぁと思っても見過ごすことが多かった。
大学生活にも慣れてきたある日、女の友達と街を歩いていたら、フランス映画のポスターが貼ってあった。「ふーん。見たいなー。」と僕が何気なく呟くと、その子は「じゃ、一緒に見に行かない?」と言って僕を誘ってくれたのである。

あとになってよくよく考えてみると、その子は僕のことを好きではないにしろ、何かしらの気があったことになる。ここでは書けないことも多いのだが(多いというのが問題なのかも知れないが)、そもそもあの時彼女が、僕と一緒にいたその理由すらを、僕は考えようともしなかったのだ。
さらに始末の悪いのは、その気持ちに気づいたときから、今度は僕の方が彼女のことを好きになってしまったことである。そして、その時にはもう、彼女は僕に愛想を尽かすことしか出来なかったのである。

ぎくしゃくした時間がいたずらに過ぎ、お互いに顔を合わせることも少なくなり、さよならを告げることもないまま僕は旅立ってしまった。こういう経験をあとになって振り返った時、あの子はどういう気持ちになるというのだろう。あまりにも安易にひとを傷つけすぎる自分に気づいたところで、すべては遅すぎたのだ。失ったらかえらないものもあるってこと、僕はとっくに知っていた筈なのに。

まだほかの人を好きにはなれないけれど、今は、この出会いと別れも大切にしたいと思っている。